インドネシア経済、次なる成長ステージへ「離陸」―最新の企業動向現地リポートインドネシア経済、次なる成長ステージへ「離陸」―最新の企業動向現地リポート
BRI(バンクラヤットインドネシア)
マイクロ融資で稼ぐ異色のメガバンク、地方に根を張り需要吸い上げ

インドネシアの地方で零細企業を主要顧客として融資を急速に拡大する異色のメガバンクがある。国営銀行大手のBRI(バンクラヤットインドネシア)だ。「マイクロ融資(レンディング)」(注)と呼ばれる小口貸し出しで圧倒的シェアを誇り、同融資の額は07年から11年に約3倍に膨らんだ。BRIは総融資額で国内トップクラスの銀行だが、中でもマイクロ融資の比率が最も高く、11年はローン全体の31.80%を占めた。

図表1:BRIのマイクロ融資額推移

出所:BRIの資料を基にモーニングスターが作成

マイクロ融資の拡大余地は大きい。BRIによると、インドネシアでは11年に零細・中小企業の数が5,521万社に達したとみられ、その98%が零細企業。IR担当責任者バイスプレジテント(副社長)のリスティアリニ・デワヤンティ氏は「零細企業の3分2はまだ銀行融資を利用しておらず、われわれにとってのビジネスチャンスとなる」と語った。

現地のBNI証券でリサーチ部門ヘッドを務めるノリコ・ガマン氏は、「BRIはマイクロ融資を中心に良質な顧客基盤を持ち、同分野では企業向けローンより高い利率で融資できる」と話す。マイクロ融資の貸出金利は22−33%と非常に高く、成長の源泉となっている。

高金利でも貸倒少なく、支払い能力より「社会的価値」に重き

BRIのIR担当責任者バイスプレジテント(副社長)、リスティアリニ・デワヤンティ氏

20%以上の高金利と聞くと貸倒が懸念されるが、マイクロ融資の不良債権比率は際立って低く、そこにBRIの強さの秘密がある。11年の同比率はわずか1.19%で、同行ローン全体の不良債権比率2.30%の約半分。BRIは貸倒を防ぐためにローン利用者の支払い能力を十分に分析する他、ローン額より高い担保を取るなど返済が適切に行われるよう様々な施策を講じている。

特に重要なのは、ローン利用者に村など地域共同体の一員としての責任を意識させることだ。BRIのマイクロ融資は、各共同体単位の預金者資金がBRIを通じて借り手に行き渡る仕組みになっている。債務を返せなければ共同体のメンツを失うことになるため、借り手は他のメンバーに迷惑をかけないよう返済する。BRIが融資拠点のネットワークを張り巡らせる地方では、「こうしたソーシャル・バリュー(社会的価値)の方が支払い能力よりはるかに重要」(デワヤンティ氏)という。

業界平均大きく上回る利益率、規模のメリットで競合突き放す

BRIがマイクロ融資で効率的に稼いでいることは経営指標を見れば一目瞭然だ。有利子資産に対する純金利収入の比率であるNIM(純金利マージン)は11年に9.58%とインドネシアの業界平均5.91%を大きく上回る。競合他行が多くの利用者に小額ローンを行おうとすれば審査などに様々なコストがかかるが、BRIはマイクロ融資最大手として規模のメリットを享受し、インフラや人材に積極投資することで手間暇かけずにマイクロ融資を提供する体制を確立した。

ライバルをさらに突き放すため、BRIが現在注力するのが「テラス」と呼ばれる小規模店舗の拡大。これは、従来のマイクロ融資よりさらに小口のローンを提供するもので、農産物などが販売される伝統的な市場に融資を相談できる小さなコーナーを設ける他、持ち運び可能な電子決済機器を利用し、店を離れられないオーナーを訪れニーズに応える。

テラスは10年の617店舗から11年に1,304店舗と倍以上に増加。昨年は、首都ジャカルタや第2の商業都市スラバヤがあるジャワ島に比べてそれ以外の地域でテラスの増加が目立った。テラス総数に占めるジャワ島以外の店舗数比率は10年の37.44%から11年に42.02%まで上昇。マイクロ融資の成長余地が大きい地方の開拓を急ぐ。

アジア通貨危機乗り越え業績拡大、融資先は景気変動に柔軟対応

BRIは業績を順調に伸ばす。11年12月期は金利収入から金利費用を差し引いた純金利収入が前年比4.14%増の33兆8,699億ルピア(約3,000億円)、純利益は同31.47%増の15兆829億ルピアとなった。インドネシアの銀行をめぐっては企業向け貸出の金利引き下げ競争や個人向け住宅ローンの規制が業績に及ぼす影響が懸念されているが、マイクロ融資を主な収入源とするBRIはこうしたネガティブ要因に左右されにくく、業績は堅調に推移するとみられる。

デワヤンティ氏は同行のこれまでの歴史を振り返り、「われわれは1984年に商業銀行としてマイクロ融資のビジネスを開始。1997年、98年のアジア通貨危機を含め、これまでに景気の上昇・下降サイクルを経験したが。競合他行はインドネシアの景気が良いときしか知らない」と話す。BRIにとっての強みは、マイクロ融資の主な対象となる零細企業が景気変動に柔軟に対応できることだという。

図表2:BRIの株価推移

BRIの株価はリーマン・ショック後に1,000ルピア近辺まで下落したものの、その後は上昇基調を継続し、足元では7,000ルピア台に達した。住宅ローン規制などで銀行セクターの先行き透明感が強まるなか、BRIがマイクロ融資の安定収入を背景に好業績を発表すれば、同行の優位性が改めて評価され株価をサポートすると期待される。

(注)「マイクロ・ファイナンス」では投資家による出資や寄付金が融資の原資となるのに対して、「マイクロ融資(レンディング)」では共同体内の別のメンバーの預金が原資となる。

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